俳句の百科事典ハイクロペディア汀俳句会

「俳句の百科事典ハイクロペディア・井上弘美自選十句より」(蜂谷一人氏)

俳人の蜂谷一人氏の「俳句の百科事典ハイクロペディア」に、
井上主宰へのインタビュー動画「井上弘美自選十句より」が配信されました。

(1)卒業の空のうつれるピアノかな  
高校の教師だった作者。卒業の日の思い出深いシーンが一句になりました。
推敲によってがらりと印象が変わるのが俳句。添削の名手である作者が、
この句を題材に様々な可能性を解説してくれます。俳句初心者の皆様必見。

(2)母の死のととのつてゆく夜の雪  
母上の死が契機となって生まれた一句。初案は別のかたちでしたが、
師の一言によって改めたと言います。
ほんの少しの違いなのに受ける印象は大きく異なる。
俳句でモノを詠むことの重要性に気づかせてくれるエピソードです。

(3)大いなる夜桜に抱かれにゆく   
なんとか桜の一句を賜りたいと、京都の街を彷徨っていた作者。
辿り着いたのは桜と人が心を通わせることのできる場所でした。

(4)野遊びの靴脱ぐかへらざるごとく 
野遊びのあるシーンに注目したさ作品。見慣れた風景が突如異界へと変わります。
いなくなった子どもたちは何処へ行ってしまったのか。
もうすぐ日が暮れこの世界を闇が覆い尽くします。

(5)荒縄をくぐる荒縄鉾組めり    
鉾組むは祇園祭の傍題。京都に生まれ育った作者は一ヶ月にわたる祭りの全てを見てきました。
中でも心に残ったのが鉾を組むシーン。一本の釘も使わずに組み上げる祭りの舞台裏です。
そこに祇園祭の真実を見出した作品。見事なまでの省略が施され、読者の目はある一点に惹きつけられます。

(6)根の国へ鉦を打ちゆく暮春かな  
作者の故郷、京都の祭礼がモチーフになっています。根の国とは素戔嗚尊が支配する死者たちの国。
打ち鳴らす鐘は、遥か彼方の世界にまで鳴り響くのです。

(7)流氷原を行くたましひの青むまで 
流氷ではなく流氷原。その上を歩けるほどぎっしりと流氷が並んだ状態です。
年に何回かしかないという珍しい現象に遭遇した作者。危険も顧みずある行動に出ます。

(8)犬岩の耳滅びゆく冬銀河     
吟行の際にガイドさんの説明を聞かないと言う作者。その場で感じた感覚を大事にしたいからだそうです。
ところがその日は、珍しく説明が胸に入ってきた。そこで詠まれた一句です。

(9)狐火を見にゆく足袋をあたらしく 
その日の句会の題は「狐火」でした。題を忘れて出席し、即吟を強いられた作者が出した結論とは。
虚の季語を詠む難しさと楽しさの両方が感じられるエピソードです。

(10)かがり火を雨のつらぬく実朝忌  
忌日を詠むのは難しいもの。挑戦することを薦める先生と慎重な先生。
二人の俳人に師事した作者が選んだ結論とは。
実朝忌という季語が見事に生きた一句。花と雨と火という耽美の世界を謳って映像的にも秀逸です。

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